【前回のあらすじ】
何もない自分の現実を突きつけられた就職活動中のフロ子。泣きはらした翌日、フロ子は大学の就職支援センターの松宮の前に再び座っていた。
「その腫らした目でよくお越しくださいましたね。ただ、就職の面接では印象悪いですが…」
嫌味混じりの会話でフロ子を迎えた松宮だったが、言葉とは裏腹に、表情には笑みが浮かんでいた。
「で…一晩自分と向き合ってどうでした?」
「…辛かったです」
「…でしょうね」
「ただ…」
「ただ…?」
「これから『現実から目をそらさないこと』を決めました」
フロ子は真っ直ぐに松宮の目を見て答えた。
「今の自分には何もないのも現実ですし、これまで深く考えてこなかったことも現実です。でも私にはここから改めてスタートするしかないのも現実なんです」
松宮は黙ってフロ子の言葉を聞いていた。
「松宮さんと出会わずに就職していたら、私は仕事で辛いことにぶつかれば、現実から目を背けて逃げ出していたと思います。『働くことをシンプルに考えればいい』と思っていたのは、現実に向き合わず、考えることを放棄することだった…」
大学の就職支援センターは今日も学生で賑わっていたが、フロ子にはその喧騒は耳に入らない。それは話を聞く松宮も同様だった。
「私は今日から考えることにキチンと向き合います。辛くてもわからなくても考えることから目を背けません。それが私にとって『働く』ことの大きな一歩です。なので、松宮さん、色々と私に教えてください」
松宮は下を向いて大きく息を吐いてからフロ子を見た。その顔は初めて会った時とは別人のように柔和な顔だった。
「これだから学生さんは面白い、そして素晴らしいです。私もあなたの就職について真剣にお手伝いさせてもらいます。一緒に頑張りましょう」
「はい!」
大学の就職支援センターの賑わいにフロ子の返事もすぐに飲み込まれた。そう、フロ子の野望はまだ始まったばかりなのだ。
(おわり)