【プロ子の野望 第十七話】
【前回のあらすじ】
就職活動中のフロ子は大学の就職支援センターの松宮の言葉から逃げるように帰宅する…
自宅に戻るなり、まっさらのゴミ袋を引っ張り出してきたフロ子は、家の中の目につくものを袋に放り込みはじめた。
『大事なものだけを残せ。大事なものだけを残せ…』
頭の中を自分の言葉が幾重にもこだましはじめ、それは不協和音のように響き続けた。ほとんど見境なく部屋にあったものをゴミ袋に放り込んだ。その間も不協和音は増幅を続け、それはひどい頭痛と吐き気に変わり、フロ子をトイレに追い込んだ。
便器を抱きかかえて吐くと、第一波につられて、吐き気は連鎖した。胃が空っぽになっても胃の中の空気を吐き続けた。飲みすぎて吐いたこともないフロ子には初めての経験だった。自分がどうしようもなく惨めに感じ、わんわんと声を出して泣き続けた。
どれくらいの時間そうしていたのか、とてつもなく長かったようでもあり、ついさっき泣き始めたようにも思う。しかし、時間の有り余るフロ子にとって、そんなことはどっちでもよかった。顔だけを雑に洗い、ベッドに倒れ込んだ。元々飾りっ気のなかった部屋を彩っていたなけなしの雑貨なども全てゴミ袋に入れたおかげで、部屋は無味乾燥な空間に仕上がっていた。
フロ子は天井をにらみながら大学生活を振り返った。少しだけ興味のあった文学を学び、授業の範囲内でそれなりに真面目にやってきた。成績もそこそこ良かった。これからも学生生活が続いていくなら、きっとうまくやっていけたはずなのに…。これからも学生生活が続くなら…
ありもしないことを延々と思い続け寝落ちしていたフロ子が目覚めた時間は、松宮との約束の1時間前だった。フロ子はむくりと起き上がった。
(つづく)