【前回のあらすじ】
就職活動中のフロ子は大学の就職支援センターの松宮から現実に引き戻される言葉を受けて…
大学の就職支援センターを出て、一人暮らしの部屋に向かうフロ子には、目に映る風景がまるで映画のワンシーンのように見えていた。
幼い子どもの手をひいて歩くお母さん、足早に歩く中年のサラリーマン風の男、手押し車に手をかけながら道端でおしゃべりするおばあちゃんたち、植え込みに咲く名前も知らない花まで、すべてが美しく尊いものに見える。
そして、私が見えている世界に私はいない。
何をして生きてきたんだろう? 何をして生きていくんだろう? これまで考えなければと思っていながら、面倒がって避けていたことだ。思い返せば、これほど面倒がっているということは、自分でも、避けられない、重要な問題だとわかっていたことなんだと、フロ子は今さら気がついた。
『面倒だと思うことは、本当は自分が大切だと思っていること』
あぁ、こんなに大切なことを自分ひとりだけのものにしてはいけない。これから就職活動をする後輩に伝えなきゃいけない、もしくはもっともっと多くの人に伝えなきゃいけない、こんな風になってしまう、私みたいな人を一人でも減らすために!
本当に伝えたい過去の自分に伝えられないもどかしさからか、フロ子は変な心持ちになり、思わず誰から構わずに声をかけて伝えたいような衝動にかられた。フロ子は夢とも現実ともいえないような不安定な気持ちで空を見上げた。
ドラマティックに雨が降ってくる訳でも、抜けるような青空でもなく、六割ほどが雲に覆われた空が、頭上にどんより広がっていた。
明日、私はまた松宮に会うんだろうか?
自分のことなのに、自分のために人を巻き込んでいることなのに、他人事だと思いたくて仕方がなかった。
(つづく)