【前回のあらすじ】
就職活動中のフロ子は大学の就職支援センターで相談すると担当の松宮から「安っぽい」と一蹴される…
「アナタが大学生活を通じて学んできたことは、そんなに安っぽい言葉で説明できてしまうものなのですか? 『働くことをもっとシンプルに考えればいい』と、たったそれだけですか?」
担当の松宮から言われ、フロ子は頭からいきなり冷水を浴びせられたように血の気が引いていくのを感じた。
「私は……私は………」
言葉が続かなかった。誰からも干渉されない、波風の立たない生活を細々と続けてきた学生生活が、松宮のひと言で、突然自分に牙を向いて襲い掛かってきた。社会から、未来から逃げてきた過去だけが鮮明に思い出される。ぬくぬくと、いつまでも続かないことをわかっていながら、何も行動してこなかった自分。
「戸惑っているようですが、私がアナタにしている質問は、これから就職活動をしていくならどの面接官でも感じることですよ。それを口に出すか出さないかはその人のアイジョウによると思いますが…」
松宮はそう言うと胸ポケットに差していたボールペンをとり、カチッカチッとノックして芯を出し入れした。クセなのだろうが、そのノックする音にフロ子は自分の呼吸を操作されているように感じた。苦しい。呼吸が浅くなっているのを認識しているものの、うまく息を吸えない。今まで意識せずにできていたことが、突然とてつもなく難しく感じる。
「ショックを受けているようなので、今日はもうお帰りください。明日、また同じ時間にお待ちしていますので、改めてお話しましょう」
そう言うと松宮は立ち上がり去っていった。フロ子はひとり取り残されたまま、しばらく動けずにいた。
(つづく)