【前回のあらすじ】
就職活動中のフロ子は「働くやり甲斐」を探していた。母親に訪ねると「ビールが働く生き甲斐」との答えが返ってきて…
母との電話を切ったあと、フロ子は再びユニットバスに向かった。
蛇口をいっぱいまで回すと、ドドドドドとお湯が勢い良く流れ出る。数分後、さっきまでシャワーをしていた場所で、フロ子は久しぶりに湯船に身体を沈めていた。
大きく息を吐くと、からだの中からよくわからないモヤモヤみたいなものが少し抜けていく気がした。そして母親の言葉を思い出して少し笑った。
(仕事のあとに飲むビールが働く生き甲斐なんて、あの人らしいな)
そんな母親を笑って、フロ子は初めて「働くためのもっともらしい理由」を自分が探していたことに気がついた。いわゆる『教科書通りの』働く理由を。
理由がなければダメなんだ。そう考えれば考えるほど、働くことがとても気高いことに思えてきていた。
もっと簡単でもよかったのかもしれない。簡単なことをややこしくしていただけなのかもしれない。私が働く理由は例えば…例えば、もっと広いお風呂に毎日入りたい! そんな理由でもいいのかもしれない。
そう思うと、重かった心も身体もずいぶん軽くなった気がする。
とりあえず、ちょっといい入浴剤から揃えて…半身浴用のグッズを見に行ってもいいかもしれない。なんなら、銭湯巡りを趣味にしてみてもいいかも!そんなとりとめのない発想を続けていくと、気がつけば長風呂になっていた。
久しぶりの長風呂だった。
(つづく)