【前回のあらすじ】就職活動中のフロ子はある会社の説明会で疑問を感じる。答えを探し人財プロオフィサーの大林の過去と現在の夢に触れるが…
大林と別れ自宅に帰ると、話を聞いていただけのハズなのにぐったり疲れていた。バスタブにお湯を張る元気もなく、簡単にシャワーですませて少しさっぱりはしたものの、心のモヤモヤはおさまる気配もない。
(母に相談してみようか…)
これまで進路のことで両親に相談することもなく、なんでも自分で決めてきた。だから、こんな風に思うこと自体にフロ子自身が一番驚いていた。
フロ子の両親は共働きで、母は保険の営業員としてフロ子を産む前から働いてきたキャリアウーマンだ。毎日忙しそうで、でも、毎日とても楽しそう。そんな母親の明るさが自分の影を浮かび上がらせる、うとましい存在と感じることも少なくはなかった。
ただ、母なら「働く」ということに対して何らかの哲学を持っているのではないか?
そんな期待がフロ子を動かし、気がつくと母に電話をかけていた。
プルルルル… プルルルル… プルルルル…
(どうせ忙しいから出るハズないか…)
あきらめて電話を切るやいなや、母から折り返しの電話がかかってきた。あわてて通話ボタンを押す。
「え? 何? 事件? 事故? アンタ大丈夫??」
こちらが話す間も与えずにクエスチョンを放り込まれたフロ子は、思わず「ぷっ」と吹き出してしまった。笑い声を聞いた母はすかさず続けた。
「なになに? ドッキリとか? もしくはテレビ収録? えー! そういうのイヤなんだけどー!」
そこまでひと息で話してから「アハハハ」とカラッとした笑い声を届ける母は、昔から何も変わっていない。
(つづく)