【前回のあらすじ】 就職活動中のフロ子はある会社の説明会で疑問を感じ答えを探して人財プロオフィサーの大林と珈琲店で話すことに…
「私には夢がありました」
大林はふぅと息を吐いた後、とても落ち着いた口調で言った。
「夢…ですか?」
フロ子にとって『夢』という言葉は恐怖の対象だ。昔から「夢が特にない」というだけであからさまにガッカリされたり、つまらない人間として見られたからだ。
「プロ野球選手になりたかったんです。この体型からは想像もつかないかもしれませんがねぇ」
そう言って笑う顔は、会社説明会の時に会ったほがらかな大林の表情に戻っていた。
「今でも会社帰りにバッティングセンターに寄ったりするんですよ? そうすると隣のバッターボックスに若い子が入ってきたりする」
フロ子は話の意図がわからずに小さく頷いた。
「その姿はとてもまぶしく、そして危うく見えるんです。無理をしすぎて怪我しないだろうか…とかね」
フロ子は大林が夢をあきらめた理由がわかった。だが、どう言っていいかわからずにアイスコーヒーに刺さったストローを持ってゆっくりかき混ぜた。グラスの水滴が会話のスピードを無視してつーっと流れ落ちる。
「昔の私の夢は、昔の私があきらめました。そして、今の私の夢は、昔の私のような人に夢を感じる手助けがしたいんです。その人が持っている『才能』という財産を活かせるように」
(つづく)