【前回のあらすじ】
就職活動中のフロ子はある会社の説明会で疑問を感じ答えを探して人財プロオフィサーの大林と珈琲店で落ち合った。
「私は…」大林はそう言ってしばらく黙ってしまった。フロ子は続きを早く聞きたい衝動を抑え、黙って次の言葉を待った。
「スミマセン…人の話を聞く方が多い仕事なので、自分の話になるとつい口下手になってしまいますね」
フロ子はどう答えていいかわからずに曖昧に笑みを作った。沈黙の後ろでうっすらと、レコード盤から流れるクラシック音楽が聞こえる。
「私は…人が嫌いです。できれば誰もいない場所で自給自足の生活をして細々と生き、そして死んでいきたい」
そう言うと大林は大きく息を吐き出した。
「でもねフロ子さん。その反面、人ともっと深く・密に関わることができればどんな気持ちになれるんだろうといつも思っていました。完全に真逆の感情です。それが同居していたのが、ちょうどフロ子さんと同じくらいの年齢の私です」
フロ子は自分のことを言われているようで思わず生唾を飲み込んだ。幸い強い雨の音で大林の耳にまでは届かなかったが、フロ子は自分を見透かされているようで怖さすら感じた。
フロ子にとって他人と接することは面倒なことだった。けれど、これからの人生で他人と接することなく生きていくことは現実的に難しい。
ある意味「あきらめ」の感情から就職活動に取り組み始めたフロ子は、大林との出会いに偶然以上のめぐり合わせを感じずにはいられなかった。
(つづく)