【前回のあらずじ】
就職活動中のフロ子はある会社の説明会で疑問を感じる。その疑問の答えを探すべく人財プロオフィサーの大林と珈琲店で待ち合わせた。
窓際に座ったフロ子たちが注文を終えると、外では強い夕立が降り始めた。駅の改札口には人があふれ、二人のいる珈琲店との数メートルの間は完全な空白地帯となった。
「ラッキーでしたね」
駅の屋根で雨宿りしながら空を恨めしそうに見上げる人々を見つめながら、少し申し訳なさそうに大林は言った。
「私もラッキーです。大林さんにお会いできて」
「ずいぶん期待されてますね…」
そう言って大林は笑った。注文したドーナツを頬張る大林にフロ子は他社の就職説明会での出来事を話した。
「人生の大半を費やす仕事」として充実感ややり甲斐を感じておられますか?
フロ子は自分のした質問を改めて口にした。大林は黙ってドーナツを静かに食べながらフロ子の話を聞いた。
ひと通り話を終えるとフロ子はアイスコーヒーにストローをさし、ゆっくりと氷をかき回しながら聞いた。
「大林さんはなぜ今の仕事を選んだんですか?」
大林はすっかりドーナツを食べ終わり、ナプキンを1枚とって口のまわりを拭い、珈琲をひと口すすった。あちっ、と小さな声でつぶやいてからコップの水を少し飲んで言った。
「少し長い昔話になりますが、お時間は大丈夫ですか?」
「ぜひ聞かせてください」
窓の外では雨足が強さを増していた。
(つづく)