ー将来の夢はなに?
そう聞かれることが何よりも嫌いな子どもだった。夢を語らない子どもに大人たちは心底落胆したような顔をする。その度に思った。
「あなたは夢を叶えたの?」
しかし内気な彼女の口からそんな言葉が出るはずもなく、不満だけが積もった。
そんな彼女のほんのささやかな、夢と呼ぶにはあまりにも小さな願いは、大人から干渉されない環境を手に入れることとなった。それは、とても人前で大声で発表できるようなものではないことは彼女自身も知っていた。そして、18の春、大学入学と同時に一人暮らしをはじめた彼女は、唯一の夢を叶えてしまったのだった。
極めて平和で、そして平凡な日々は瞬く間に過ぎ就職活動の時期となった。リクルートスーツが学内に増え始めるにつれ、彼女の平穏な心に次第に波風が立ちはじめた。授業を受けていても、そこここで就職活動の話題が耳に入ってくる。就職活動には『自己アピール』という、彼女からすればとんでもない項目があることは知っていた。
(私にアピールするところなんてあるのだろうか…。また夢を語らなければいけないのだろうか…)
だからといってこのまま学生を続けるお金もない彼女は、周りに流されるように説明会に申し込んだ。どの会社も説明を聞くだけで気落ちしたが、一社だけ彼女の心に引っかかる会社があった。『人と企業をつなぐ仕事』人財プロオフィサー。
(つづく)